大阪高等裁判所 平成7年(ラ)316号 決定 1995年7月17日
抗告人
大前一繁
同
浅井幹雄
同
宮本薫
同
内橋清
同
長谷川定義
同
永井真二
同
依兼昌彦
右抗告人ら代理人弁護士
安田孝
右復代理人弁護士
峯本耕治
同
菊元成典
相手方
大景生コン株式会社
右代表者代表取締役
中村吉輝
右代理人弁護士
前田貢
主文
一 原決定を取り消す。
二 本件を神戸地方裁判所に差し戻す。
理由
一 抗告の趣旨及び理由
別紙のとおり
二 当裁判所の判断
抗告人らが当審で提出した資料及び抗告人ら代理人に対する事情聴取の結果によれば、抗告人ら従業員は、本年六月一六日から相手方の三木工場において生コンの製造を再開し、一一月からは、小野工場において業務を再開することを予定していること、材料の仕入れ、製品の販売については、それぞれ数社が抗告人らの業務に協力することを表明していること、従業員の確保にさしたる支障はないと見込まれること、会社の運転資金については、連合交通労組関西総支部生コン産業労働組合が抗告人ら従業員の生活の確保及び工場の運転再開のため必要な限りの融資を行う旨を表明していること、会社の従前の債務の返済方法については、公認会計士作成の一応の利益計画案が作成されており、阪神大震災後の復興需要も見込まれ、その予定売上高の達成は全然見込みがないわけではないことが認められる。
これらの事情によってみるに、抗告人らが相手方の工場等を占有、使用することは、現在の状況では法的根拠に乏しいが、金融機関等の担保権者や債権者の対応次第によっては、適当な人材を得て相手方会社を再建させることができる可能性が全くないとはいえない。そして、金融機関等が抗告人らに対しどのような対応を示すかは、現段階では不明である。
そうすると、現時点においては、相手方は「更生の見込みがない」ものと断定することはできない。よって、この結論と相反する見解のもとに会社更生法三八条五号に当たることを理由に抗告人らの更生手続開始の申立を棄却した原決定は相当でないから取り消すべきである。そして、更生手続を開始すべきか否かについて、債権者の意向をも含めて同法条所定のその他の条件の有無について更に審理を尽くす必要があるので、会社更生法八条、民訴法四一四条、三八六条、三八九条を適用して、原決定を取り消し、本件を原審の神戸地方裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 山本矩夫 裁判官 林泰民 裁判官 笹村將文)
別紙
抗告の趣旨
一 原決定を取消す。
二 大景生コン株式会社につき更生手続きを開始する。
との裁判を求める。
抗告の理由
原決定には、当初に労働組合関与を排除しようとする先入観があって、本件会社更生手続開始申立に対して、申立人側の種々の事業再開への準備体制について十分な聴取・審尋をされず、主として申立書の記載と相手方代表者審問のみで判断をされた審理不尽・事実誤認の事由があると確信致します。
以下、右各事由について申し述べます。特に原決定では「資料がない」とされますが、申立人らが本件申立受理を踏まえて、その後に種々準備した状況等について、何ら事情聴取も検討もないまま、急遽、原決定がなされた点を御訴えするものであります。
一 被申立人会社の役員らには、信用が無いこと。
被申立人会社の代表取締役中村吉輝は、本件倒産後一度も姿を現さず、専ら弁護士らを介して企業売却と裏金取得を目論んで来たもので、その間、申立人らの属する労働組合代表者とか幹部役員とは一度も会わず、その所在さえ明かにせず、今日まで雲がくれして来た事実は明白で、これらの被申立人会社役員らの弁解・主張等が信用できないことは、その無責任振りと共に、原決定裁判所にも公知の事実の筈である。
二 審理不尽について
原決定裁判所が、右中村吉輝の審尋により、更生会社について今後の商品の仕入先・販売先の見込みが無いとされることは、事実誤認も甚だしいものである。確かに従前の仕入先・販売先に迷惑を掛けたまま逃げた中村吉輝氏なら、従前の仕入先・販売先が相手にしてくれないことは当り前のことで、それは中村吉輝氏についての判断であり、現在、本件申立人らが具体的にどのような仕入れルート・販売先ルートを用意しているかは、原決定裁判所は全く審問もせず聞こうともしなかったもので、その審理不尽は、片手落ちどころか何らかの先入感に基づく専断と言わざるを得ない。
申立代理人は、別紙添付の石川昌司公認会計士作成の「大景生コン株式会社利益計画」を提出していますが、当初に申立代理人である弁護士が、右公認会計士作成の同公認会計士の履歴書をも提出しており、同公認会計士は場合によれば更生会社の事実管財人をも受任の意思を有することも確認しております。よって是非とも同公認会計士を同行して、右「大景生コン株式会社利益計画」の詳細な説明・上申をさせて欲しいとお願いしているにも拘らず、そのような面接は考えていないとして、遂に面接日時の指定をして戴けなかったままであります。
三 本件会社更生計画の実現については、申立人らのみの計画ではなく、上部労働組合を始め、多くの関係者・会社等の協力が約束されていること。
本件申立は、元々は本件申立人らの所属する労働組合の上部団体である「日本労働組合総連合会(いわゆる連合)、交通労連関西地方総支部に属する生コン産業労働組合(略称、連合生コン産労)」が組合活動の新分野を開拓したいとして発案したもので、予て腹案として検討・準備して来た労働組合の自主管理については、相談を受けた弁護士らが判例に反する労働組合の活動には同意できないので、法的手続きの一つとして本件会社更生手続開始申立を選んだものである。
被申立人会社との折衝の決裂後、裁判所の申立受理までには阪神大震災を挟んで移送問題や提出先の指示まで入れて約四ケ月余の検討・ご指導を戴いて来たものであり、当初は、右の労働組合が申立人となることを希望していたが、「右労働組合は本件における法律上の債権者とは言えないから、法律上の債権者と言える個々の従業員を申立人にせよ」という裁判所の事前窓口指導を受けて、申立人をそのように変更したものにすぎず、その実体は、右の「連合生コン産労」労働組合が全責任を持ち、その組織をあげて本件会社更生計画を推進しようとしているもので、原決定裁判所にも、右労働組合執行委員長や書記長らも同行して面接し、その責任の所在を明確に申し上げていたものである。
四 労働組合嫌忌の疑問について
原決定裁判所が前記労働組合に偏見を抱いておられるのならばともかく、会社更生には種々の協力者が必要なことは明白で、それが労働団体であっても許される筈と思料するものであり、会社更生手続きは裁判所の御監督の下に、法律管財人弁護士等も入れて進められる法的手続きであるから、そこでは労働組合の支援・応援は歓迎されても嫌忌される筈はないと確信する。
本件は、労働組合がいわば初めての組合活動として会社更生を支援しようとするものであって、その真摯さと熱意は絶大なものであり、そのために種々の機関決定の手続きも踏み、組合からの資金的な支出を続けて来たもので、既に種々の準備行為に億を越える資金投入をして来て、現実的には、今更に引き返す道を持たない実情なのである。
社会的にも、相手方会社の事業は、阪神大震災からの復興には欠かせられない業種の事業であり、申立人らは裁判所にも極めて好意的、もしそうでなくても心情的に本件申立に前向きに御理解を戴いていると信じ、裁判所の御指示に従い、開始決定が出るまでは何事も秘密裡にと、種々の準備行為の詳細は、なるべく表に出さず隠して来た次第である。
兵庫銀行や幸福銀行にも、労働組合執行委員長や書記長が弁護士と共に協力を取り付けに挨拶に回っており、銀行側の返答は、銀行としてはすべて裁判所の御決定に従うのが基本姿勢ということで、本件会社更生申立に反対するような言葉は全く聞かれなかった。
五 労働組合主導の計画であることは間違いない。
元々、本件個々の申立人らのみで本件申立の計画をしたものではない。
原決定によれば、個々の組合員の技能・職歴等を指摘して、それらのみでは本件会社更生計画が担当し切れないやに、判断されているが、本件申立は、当初から、それらの申立人らのみで本件会社更生計画が担当できる、などとは申し上げていないことは裁判所にも明白だった筈である。
営業面は勿論、種々の能力的に不足の生じる点は右労働組合執行部も十二分に認識していて、だから僭越乍ら「連合生コン産労」が全責任を持ち、その組織をあげて申立人らを支援・応援して、本件会社更生計画に協力することを上申していたもので、当初から労働組合関係の弁護士や公認会計士らも協力し、営業はもとより、資材の仕入れ、運送、販売先についても、右労働組合執行部が種々奔走して、完璧に手配済みであり、裁判所からのお呼び出しがあれば、いつでも仕入れ、運送、販売先の各会社責任者も裁判所に同道同行して、その審尋に応じることも上申して来ていた。
労働組合を合法団体として認めないと言われるのならば格別、これらの上申を無視しておいて、当然に調査・確認すべき申立人側の準備体制を殆ど確認せず、いきなり、本件の個々の申立人らのみでは、本件会社更生は無理だと、断定される原決定の立場は、右の真摯な労働組合関係者の準備の実体を、故意に無視・黙殺される極めて不当なものと申し上げざるを得ない。
六 商品の仕入れ先、商品の販売先は十二分にあること
原決定裁判所が、申立代理人や本件申立人関係者も呼び出さず、その詳細な審尋もされずに、いきなり「商品の仕入れ先、商品の販売先の見込みが無い」とされることは、本当に事実誤認で、申立人はそれらにつき確かに準備している。
生コン業界では、各セメント製造大手メーカーによる、生コン工場の系列化が激しく、本件会社更生申立の噂だけで、各大手メーカーからの労働組合幹部への打診が相次いでおり、労働組合としては「何にしても裁判所の開始決定があるまでは一切契約に応じられない」と断るのに苦労している現状で、見込みが難しいどころか、引く手数多の実情なのである。
ただ開始決定が出るまでは、勝手な行動を控えるようにという裁判所からの指示もあり、商品供給先も、他業者から抜け駆けを攻撃されるのを避けるために、各会社がいずれも表に出ないだけで、そもそも大手メーカーと連合系労働組合の幹部とは、永年の知己が多く信頼関係も多くあるもので、仕入れ先が難しいなどと言うのは、会社更生を妨害したい中村吉輝氏一派の、素人相手の根も葉もない暴論で、現に申立人側は、いつでもメーカ会社の責任者を裁判所に同行する予定を立てていたものであり、いつまでもお呼び出しが戴けないので、破産部受付に代理人弁護士が直接押し掛けて、担当裁判官との面接と種々の説明上申を申し入れ、日時の指定をお願いしても、返答は、その必要は無い、と面接の日時を入れて戴けなかったもので、何故なのか不可思議に感じていたのであり、この点も著しい審理不尽である。
各セメント製造大手メーカーとしては、一つでも二つでも自己の系列の生コン工場が欲しく、水面下で熾烈なシェアー争いを繰り広げていることは、この業界の常識であり、場合によっては大手メーカーが生コン工場の資金援助までしている例も枚挙にいとまが無いのが、この業界の常識であり、御審尋さえ戴けば、代理人でさえ明確にお答えもでき、御理解を戴ける程度のこの業界の常識なのである。
七 中村吉輝氏らの妨害行為
被申立人会社の代表取締役中村吉輝氏の関係者が、本件申立後に現地の通路に砂利を投棄して通行不能にしたり、急遽小屋を立てて保存登記をしたり、更には暴力団的輩を使っての脅迫的言動は、誠に目に余るものがある。
従って、本件の開始決定を待たずに、申立人ら(勿論その背後に前記労働組合が居るが)が既に手配している資材の仕入れ先、運送関係、販売先等の会社名を明かにすれば、それは、いたずらに暴力団関係者とか倒産事件屋等が当該各会社や関係者に種々の嫌がらせを敢行するので、申立人らや労働組合としては、何にしても本件開始決定が出るまでは、と耐えに耐えて、そうした関係先の名前はあくまで沈黙して、ひたすら本件の開始決定を待っていたものである。そもそも右労働組合が全責任を持ちその組織をあげて申立人らを支援・応援するからには、当然にそれらの配慮・手配は完全に出来ているもので、ただ手続きを重んじれば、開始決定があるまでは何事も表立てず、且つ、近い将来選任される管財人弁護士と裁判所の御指示に従って処理される事項であるから、勝手に申立人や労働組合が先走って物事を決めることは極力禁止し、我慢に我慢を重ねて来ているもので、そもそも本件申立をするからには、成功させるだけの相当な見込みと自信が無ければ、労働組合としても、大金の資金支出などする筈もない。
原決定裁判所におかれては、そうした問題点を申立人側から聴取さえされずに、更生の見込みが無い、などと事実誤認の結論を出されるのは、誠に遺憾の極みであって、申立人側関係者は、開始決定が遅い遅い、と首を長くして苦しんで来たもので、右のような申立人側の詳しい説明とか上申さえ受け付けられず、聴取もされずに、本件会社更生は無理と判断される原決定は、重ねて申し上げるが、その審理不尽も甚だしいものである。
八 申立人らの真情について
原決定裁判所は、何か会社更生手続きは申立人らのみで成し遂げねばならない、やに前提されたのか、或いは労働組合に対する誤解でもあって、本件での申立人らの企業存続への善意・熱意を、何か労働組合が会社占奪を企てるいわゆる自主占有の意図のように誤解されているのか、と危倶するもので、真実はそのような邪念などは毛当無い。
折しも大震災復興にも役立ちたく、本件会社事業の将来性を確信して、申立人らは少数乍ら本件申立に踏み切ったもので、水面下では、裁判所の開始決定さえあれば、それを見て職場復帰をしようとする利害打算をしている元従業員らもあり、事業再開さえ出来れば、更に将来の展望も開けて来ると見ているもので、申立人らは本件更生の見込みは、確信を持って行動しているのである。
勿論、今後の更生手続きの成否は、将来の事実であるから、軽々に予言し得るものではないが、少なくとも商品を仕入れる先があり、これを販売する先があれば、やらせてみる価値のある事業であり、裁判所や管財人にも比較的に監視し安い単純な業種の筈で、前記公認会計士の立案で、申立人らは今後十三年間での債務返済計画を立てており、事業再開に向けて種々の準備行為を行い、ひたすら本件開始決定を待っていたものである。
以上の諸事情にもかかわらず、原審は「資料がない」として更生の見込みを否定してされるが、原審は資料を見ようともせず、否、むしろ、申立人らが提出し得るそれらの資料を見るまでもなく、更生申立への決定をなし得るかのような態度をとり、その提出の機会を与えず、いわば「不意打ち」により申立棄却(及び却下)の決定をなしたものであり、その不当性は明らかである。
よって、右状況をもう一度、貴抗告裁判所におかれて、申立人側が準備した種々の状況の疎明資料を御聴取・御審査賜り、原決定を取り消して、是非とも、本件会社更生手続開始決定を賜りたく、関係者一同、心からお願い申し上げるものである。